コラム

2026.08.06

AI人材育成の進め方|中小企業が社内でAI活用人材を育てる4ステップ【2026年版】

「ChatGPTを個人ではなんとなく使っているが、会社として活用できていない」「研修をやっても現場に定着しない」——こうした声は中小企業の現場で少なくありません。帝国データバンクの調査では、生成AIを業務で活用している企業は全体で34.5%にとどまり、活用できない理由の第2位に「専門人材・ノウハウ不足」(41.3%)が挙がっています。さらに企業規模別に見ると、大企業の活用率46.5%に対し、中小企業は32.4%、小規模企業は28.0%と、規模が小さいほど活用が進んでいない実態が明らかになっています。

この記事では、中小企業が社内にAI活用人材を育てるための考え方と、具体的な4つのステップ、費用の目安、よくある失敗例までを解説します。

なぜ今「AI人材育成」が必要なのか

「AI活用格差」の正体は人材不足

帝国データバンク「生成AIに関する企業の動向調査(2026年3月)」(全国23,349社対象、有効回答10,312社)によると、生成AIを活用する上での課題・懸念として最も多かったのは「情報の正確性」(50.4%)、次いで「専門人材・ノウハウ不足」(41.3%)、「活用範囲の不明確さ」(40.0%)でした。ツール自体は無料・低価格で使えるものが増えている一方、「誰が」「どの業務に」「どう使うか」を判断できる人材がいないことが、活用の壁になっていることがわかります。

研修なき導入は「情報不足」で止まる

独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が2026年3月に公表した「中小企業のAI等の利活用に係る実態調査」(全国の中小企業10,000社対象、有効回収1,668社)でも、同様の傾向が確認できます。AIの導入率(全社的+一部導入)は20.4%にとどまる一方、社内の理解度・情報量について「成功事例や活用事例などの情報」が不足していると答えた企業は83.3%、「適切なベンダーや製品を選定する情報」が不足していると答えた企業は79.8%にのぼりました。ツールを渡すだけでは活用は進まず、社内に「使い方を判断し、周囲に広げられる人材」がいるかどうかが分かれ目になっています。

同調査では、AI導入済み企業の目的として「業務効率化/作業時間の短縮」(87.0%)が突出して多く、業務分野別では「総務・管理部門」(68.3%)や「営業・販売・サービス部門」(60.3%)での導入が先行しています。バックオフィスや営業事務など、比較的定型業務が多い部門から人材育成を始めるのが現実的な進め方といえます。

人材育成を後回しにするとどうなるか

人材育成を後回しにしたまま導入だけを進めると、一部の担当者だけがAIを使いこなし、他の社員は使わないという「社内格差」が生まれやすくなります。こうなると、せっかく契約したツールの利用率が上がらず、投資対効果を経営層に説明できなくなるという悪循環に陥ります。育成を先送りするほど、後から追いつくコストは大きくなる点に注意が必要です。

どの部門から育成を始めるべきか

全社一斉に育成を進めようとすると、負担が大きく形骸化しやすくなります。中小機構の調査で導入が先行している業務分野を見ると、優先順位のヒントが得られます。

業務分野

AI導入率

総務・管理部門

68.3%

営業・販売・サービス部門

60.3%

経営・企画部門

58.5%

製造・生産部門

34.9%

総務・管理部門や営業事務など、文書作成や問い合わせ対応といった定型業務が多い部門は、生成AIとの相性がよく、効果を実感しやすいため、最初の育成対象として選びやすい傾向があります。逆に製造・生産部門は現場ノウハウとの掛け合わせが必要になる分、導入率が相対的に低くなっています。自社の中でも「まず効果が出やすい部門」から着手し、成功体験を社内に広げていくのが現実的な進め方です。

AI人材育成、3つのアプローチと使い分け

「AI人材育成」と一口に言っても、進め方は大きく3つに分かれます。どれか一つを選ぶというより、自社の状況に応じて組み合わせることが重要です。

①外部研修で基礎を一気にそろえる

全社員・部署単位で基礎知識と使い方を短期間でそろえたい場合に向いています。講師が体系立てて教えるため、独学のばらつきが出にくいのが利点です。カリキュラムの選び方はAI研修の選び方完全ガイドで詳しく解説しています。

②社内担当者を「推進人材」として育てる

各部署に1〜2名、AI活用を主導する「推進担当」を置き、実務での試行錯誤を通じて育成する方法です。専任の研究者や開発者を育てる必要はなく、「業務とAIをつなげる人」を育てる発想が中小企業には現実的です。育成には数か月〜半年の時間がかかりますが、外部に依存しない体制を作れます。

③コンサル伴走で実務に定着させる

研修だけでは「学んだが使わない」状態になりがちです。実際の業務プロセスに落とし込みながら並走してもらうことで、定着率を高められます。特に、複数部署にまたがる業務フローの見直しや、社内ルール整備までを一緒に進めたい場合には、単発の研修よりも伴走型の支援が適しています。伴走支援の選び方はAIコンサルティング会社の選び方完全ガイドを参考にしてください。

アプローチ

向いている企業

期間の目安

特徴

外部研修

全社的に基礎を底上げしたい

1日〜数週間

短期間で知識を平準化できる

社内推進人材の育成

自走できる体制を作りたい

3か月〜半年

外部依存を減らせるが時間がかかる

コンサル伴走

研修後の定着に課題がある

3か月〜1年

実務に即した定着支援ができる

社内でAI人材を育てる4ステップ

ステップ1:現状把握とゴール設定

まず、社員が業務でAIをどの程度使っているかを簡単なアンケートで把握します。そのうえで「問い合わせ対応の一次回答をAIで下書きする」「議事録作成の時間を半分にする」など、業務と数値に紐づいた具体的なゴールを設定します。目的が曖昧なまま研修だけを行うと、受講後に現場で使われなくなりがちです。

ステップ2:役職・職種別カリキュラム設計

経営層・管理職・現場では、必要なAIリテラシーが異なります。経営層は投資判断や社内ルール整備の観点、管理職は業務への組み込み方、現場は日々のツール操作という具合に、階層ごとに内容を分けることで、それぞれが「自分ごと」として学べます。あわせて「入力してよい情報」「使用を許可するツール」などの利用ルールも、この段階で整備しておきます。

ステップ3:ハンズオンで実務に触れる

座学中心の研修は、知識として理解できても実務で使われないまま終わることが少なくありません。実際に自社の議事録・メール・資料など、受講者が日常的に扱う題材を使って操作する演習を中心に据えることで、研修後にそのまま業務へ持ち帰れます。

ステップ4:定着支援と推進体制づくり

研修は「実施して終わり」にせず、月1回のミニ勉強会や、部署ごとの推進担当への相談窓口を設けるなど、定着させる仕組みが必要です。利用率や削減できた作業時間をKPIとして定点観測すると、育成の効果を経営層にも説明しやすくなります。中小企業のAI導入全体の進め方は中小企業のAI導入完全ガイドで解説しています。

AI人材育成にかかる費用の目安

費用は依頼範囲によって幅がありますが、目安は以下の通りです。研修に使える補助金・助成金についてはAI研修に使える補助金・助成金まとめもあわせて確認してください。

内容

費用感の目安

全社向け基礎研修(半日〜1日、外部講師)

数万円〜数十万円

職種別カリキュラム(複数回、継続型)

月数万円〜数十万円

コンサル伴走支援(定着支援含む)

月10万円〜50万円程度

よくある失敗例

AI人材育成に取り組む中小企業でよく見られる失敗パターンを紹介します。心当たりがある場合は、次の一歩を検討する目安にしてください。

  • 全社に一斉導入し、目的が曖昧なまま研修だけ実施 → 現場で使われず形骸化する
  • ツール導入のみで利用ルールを整備しない → 情報漏洩や誤用のリスクが放置される
  • 研修後のフォローがなく、学んだ内容が数か月で忘れられる
  • 経営層が仕組みを理解しないまま現場任せにし、投資判断が進まない
  • 一部の得意な社員に頼りきりになり、その社員が異動・退職すると活用が止まる

よくある質問

Q. AI人材育成は何人規模の会社から必要ですか。
A. 従業員数に関わらず、AIを業務で使う社員が複数いる時点で、利用ルールと最低限の教育は必要です。中小機構の調査でも、規模の小さい企業ほど活用率が低い傾向があり、早い段階での取り組みが活用格差を防ぎます。

Q. 研修と伴走支援はどちらを先にすべきですか。
A. 基礎知識にばらつきがある場合はまず研修で土台をそろえ、そのうえで実務への定着が課題になった段階で伴走支援を検討するのが一般的な流れです。

Q. 育成の効果はどう測ればよいですか。
A. 「特定業務の作業時間削減」「AI活用の利用率」など、導入前に決めたゴールに沿った数値で定点観測するのがおすすめです。感覚的な評価だけに頼ると、経営層への説明や翌年度の予算確保が難しくなります。

Q. 助成金や補助金は使えますか。
A. 研修そのものに使える制度と、AI導入にかかる費用に使える制度があります。研修向けはAI研修に使える補助金・助成金まとめ、導入費用向けはAI導入で使える補助金まとめを参考にしてください。制度は年度で内容が変わるため、申請前に必ず最新の公募要領を確認してください。

まとめ|自社に合った育成ステップから始めよう

AI活用格差の背景には、ツールの有無ではなく「使いこなせる人材がいるかどうか」という差があります。まずは自社の現状把握とゴール設定から始め、外部研修・社内推進人材・コンサル伴走を組み合わせて、自社に合ったペースで育成を進めることが重要です。

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