「生成AIを使い始めたのに、社内で成果として実感できない」「一部の社員が個人的に使っているだけで、会社としての効果測定ができていない」。こうした声は、多くの中小企業の経営者・担当者から聞かれます。
2026年3月に商工中金が公表した「中小企業の生成AIの利用にかかる調査(2026年1月調査)」でも、この実感を裏付けるデータが出ています。生成AIを会社主導で導入している企業、または個人利用を推奨している企業(調査では「生成AI積極活用層」と定義)は全体の31.1%にとどまり、そのうち「経営へのプラスの効果を感じている」と回答したのはわずか31.7%でした。つまり、積極的に活用している企業の中でも、成果を実感できているのは3社に1社程度という水準です。
本記事では、この調査データをもとに「生成AIを使っているのに成果が出ない」状態から抜け出すために、成果を出している会社とそうでない会社の違い、そして中小企業が押さえるべき3つの視点を解説します。
中小企業の生成AI活用の実態:「個人任せ」が6割超
まず、中小企業における生成AIの導入状況を確認します。商工中金の調査によると、生成AIの導入・活用状況の内訳は次の通りです。
- 会社での導入はなく、使用は個人の判断に任せている:64.9%(最多)
- 会社導入なし、個人の生成AI活用を推奨:14.9%
- 一部部署・メンバーがパッケージ導入:11.2%
- 全社的にパッケージ導入:4.1%
- 自社専用モデル・AIエージェント導入:0.9%
- 会社での使用を禁止・制限:1.4%
このうち「会社導入」と「会社導入はないが個人利用を推奨」を合計した「生成AI積極活用層」は31.1%です。逆に言えば、約7割の企業では会社としての方針がないまま、生成AIの利用が個々の社員の裁量に委ねられている状態にあります。
さらに注目すべきは、経営課題としての優先度です。同調査では「直接部門の人手不足対応・業務効率化」を重大な経営課題またはひとつの経営課題と捉えている企業が合計85.3%(重大な経営課題39.7%+経営課題のひとつ45.6%)にのぼりました。課題としての重要性は高く認識されているにもかかわらず、実際の取り組み方は「個人任せ」にとどまっている企業が多いというギャップが見えてきます。
会社主導と個人任せ、成果にどれだけ差が出るのか
この「会社主導か、個人任せか」という違いは、実際の成果にどの程度影響するのでしょうか。商工中金の調査では、生成AI積極活用層を対象に「現時点での生成AI活用の総合的な評価」を尋ねています。
評価区分 | 会社による導入(n=592) | 個人登録AIの利用推奨(n=534) |
経営への大きなインパクトあり+効率化などプラス効果あり | 36.6% | 26.0% |
有効事例が出てきている | 39.5% | 44.8% |
今のところ効果はみられない | 16.6% | 22.3% |
「会社による導入」の方が「経営へのプラス効果を感じている」割合が10ポイント以上高く、生成AIの活用を経営成果につなげるには、個人の裁量に任せるだけでなく会社主導のアプローチが必要である可能性が示されています。
活用事例の内容にも違いが表れています。「会社導入」と「個人利用の推奨」を比較すると、次の業務で会社導入側の活用率が高くなっています(ポイント差)。
- デスクワーク作業支援・自動化:+14.5pt
- アプリ開発・プログラミング:+10.1pt
- 現場業務/対人業務支援・自動化:+7.6pt
- メール/報告書/議事録の作成・要約:+4.4pt
- デザイン生成:+4.3pt
- 人材育成・社内研修:+4.0pt
一方、「戦略・計画策定支援、アイディア出し」(-1.4pt)や「リサーチ業務の効率化・代行」(-2.8pt)は、個人利用の方がやや活用率が高い項目でした。業務効率化に直結するユースケースほど、会社主導で仕組み化しないと広がりにくい傾向がうかがえます。
成果につながる3つの視点
同調査では、生成AIの導入・推進における課題を「導入以前」「導入検討フェーズ」「導入後」の3段階に分けて聞いています。この結果から、成果を出すために押さえるべき3つの視点が見えてきます。
視点1:活用場面を具体的に絞り込む
導入以前の課題として最も多かったのが「具体的な活用場面が不明」(35.6%)でした。次いで「自社業務になじまない」(22.2%)、「経営戦略や事業戦略に反映できていない」(18.4%)と続きます。
対策としては、いきなり全社展開を狙うのではなく、活用率が高かった「メール・報告書・議事録の作成」や「デスクワーク作業支援」など、定型的で効果を測りやすい業務から着手し、小さく成果を出してから対象範囲を広げる進め方が有効です。
視点2:推進する人材と体制を用意する
導入検討フェーズの課題では「導入を推進する人材がいない」が32.0%で最多、「従業員の知識不足・心理的抵抗」が29.2%で続きました。ツールを契約しても、社内に使い方を広め、定着させる役割を担う人がいなければ活用は個人任せのまま止まってしまいます。
社内に推進役を育成する、または外部の研修・伴走支援を活用して知識のばらつきを埋めることが、この段階のボトルネックを解消する現実的な選択肢になります。
視点3:ルールと効果測定の仕組みを整備する
導入後の課題としては「社内ルールや方針整備が追い付かない」(25.1%)、「導入効果が測定できず、成果が見えにくい」(21.3%)が上位です。加えて「情報管理やセキュリティの不安が大きい」という回答も21.0%ありました。
利用ルールの整備と、削減時間やアウトプット件数など簡易な指標での効果測定をセットで導入することで、「使ってはいるが成果が見えない」状態を防ぎやすくなります。
社内で進める場合と外部の支援を使う場合の比較
進め方 | メリット | 注意点 |
社内メンバーだけで推進 | コストを抑えられる/自社業務への理解が深い | 推進人材の不在・知識不足がボトルネックになりやすい |
研修で社内人材を育成 | 継続的に活用できる人材が社内に残る | 効果が出るまで一定の期間が必要 |
コンサルティングで伴走支援 | 活用場面の選定からルール整備・効果測定まで並走してもらえる | 一定の費用が発生する |
自社の状況(人材の有無、社内に推進担当を置けるか、期間的な余裕があるか)に応じて、これらを組み合わせて検討するのが現実的です。研修とコンサルティングの選び方は、それぞれ以下の記事で詳しく解説しています。
ありがちな失敗パターン
調査結果から見えてくる、成果につながりにくい進め方の典型例を2つ紹介します。
ツール導入がゴールになってしまうケース
生成AIツールを契約した時点で満足してしまい、その後の活用場面の選定や社内への展開を行わないケースです。前述の通り「会社導入」でも「今のところ効果はみられない」との回答が16.6%あり、導入自体が成果を保証するわけではないことがわかります。
ルールを作らずに個人利用を放置するケース
禁止も推進もせず、社員の判断に委ねたままの状態が64.9%と最多でした。情報管理やセキュリティへの不安(21.0%)を抱えたまま放置すると、活用が広がらないだけでなく、思わぬ情報漏洩リスクにもつながりかねません。最低限の利用ルールだけでも早期に整備しておくことをおすすめします。
よくある質問
Q. 生成AIの活用は、まず何から始めればよいですか?
A. 調査で活用率が高かった「メール・報告書・議事録の作成」など、定型的で効果を測定しやすい業務から始めるのが基本です。小さく試して効果を確認してから対象業務を広げていく進め方が、多くの企業で採用されています。
Q. 社内に推進できる人材がいない場合はどうすればよいですか?
A. 社内での育成には研修の活用、進め方全体の設計にはコンサルティングの活用が選択肢になります。自社の課題が「知識不足」なのか「進め方が定まらない」ことなのかによって、適した支援は変わります。
Q. 生成AIの活用効果はどう測定すればよいですか?
A. 削減できた作業時間、アウトプットの件数など、簡易な指標からで構いません。重要なのは「効果測定できず、成果が見えにくい」(21.3%)という状態を避けるため、導入前から測定する指標を決めておくことです。
まとめ
商工中金の調査からは、生成AIを積極的に活用している中小企業の中でも、経営への効果を実感できているのは3割程度にとどまることがわかりました。その差を分けているのは、ツールの性能ではなく「会社主導で活用場面を絞り込み、推進体制とルール・効果測定の仕組みを整えているか」という進め方です。
自社だけで進め方を整理するのが難しい場合は、外部の研修やコンサルティングを組み合わせることで、個人任せの状態から抜け出しやすくなります。中小企業のAI導入全体の進め方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
Nexiでは、生成AIの活用場面の選定から社内ルール整備、効果測定の仕組みづくりまで伴走するAIコンサルティングと、社内人材を育成するAI研修を提供しています。自社の生成AI活用を「個人任せ」から「成果が出る仕組み」に変えたい方は、お気軽にご相談ください。